卒FIT後も安定収入を守る判断基準
公開日:2026-08-11
卒FIT後の選択肢は「売電」だけではない
2023年以降、固定価格買取制度(FIT)の期間が終了する「卒FIT」を迎える太陽光発電所が急増しています。これまで1kWhあたり36円や32円といった高い単価で売電できていたものが、卒FIT後は市場価格(スポット市場価格や相対契約価格)に移行するため、収入が大きく変わる可能性があります。
しかし、卒FIT後の選択肢は「市場売電」だけではありません。自家消費への切り替え、PPA(電力購入契約)による売電、リプレイス(設備更新)、そして売却や撤去まで、いくつかの道があります。それぞれにメリットとデメリットがあり、発電所の状態や立地、資金計画によって最適な選択は異なります。
まずは、現状の発電所がどのような状態にあるのかを「発電量」「設備の劣化状況」「修繕履歴」の3点から確認しましょう。この基本情報が、今後の判断の土台になります。
発電量の「健康診断」を最初に行う
卒FIT後の収入を予測するうえで、最も重要なのは現在の発電所が設計値に対してどれだけ発電できているかです。年間の発電量が設計値の80%を下回っている場合、パワコンの故障やモジュールの劣化、木陰や汚れによるロスが疑われます。
具体的には、過去3年分の検針票やモニタリングデータを確認し、年間発電量の推移を見てください。また、パワコンの変換効率や温度上昇による出力低下も、夏場に顕著に現れます。専門業者に依頼して、I-Vカーブ測定やサーモグラフィー検査を行うと、目視ではわからない劣化を検出できます。
この診断結果が「設計値の90%以上」であれば、市場売電でも十分に収益が見込めます。一方、80%を切っている場合は、修繕や部分交換を検討する価値があります。診断費用は数万円かかりますが、誤った判断を避けるための投資としては決して高くありません。
市場売電の現実と契約の選び方
卒FIT後の代表的な選択肢が、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場に売電する方法です。2023年から2024年にかけての市場価格は、1kWhあたり10円前後から15円程度で推移しており、FIT時代の半分以下です。ただし、天候や季節によって価格が変動するため、年間の平均単価は予測しにくいのが現状です。
市場売電には、大きく分けて「スポット市場」「相対契約」「バランシンググループ経由」の3つの方法があります。スポット市場は価格変動が大きい反面、手数料が比較的安価です。相対契約は、電力会社や新電力と固定単価で契約するため、収入の予測が立てやすいのが特徴です。バランシンググループ経由は、複数の発電所をまとめて管理するため、小規模な発電所でも参入しやすくなっています。
契約を選ぶ際は、単価の高低だけでなく、契約期間や解約条件、精算のタイミングを必ず確認してください。また、2024年度からは容量市場の拠出金やインバランス料金が発生するケースもあるため、事業者から提示される「手取り単価」を明確にしてもらうことが重要です。
自家消費と蓄電池の組み合わせという選択肢
発電所の近くに工場や倉庫、商業施設を所有している場合は、自家消費に切り替えるのも有効な手段です。卒FIT後は、発電した電力を自ら使うことで、買電単価(例えば1kWhあたり25円から30円)を回避できます。これは、市場売電の単価よりも高い経済効果を得られることを意味します。
ただし、自家消費には注意点もあります。発電と消費のタイミングが合わないと、余剰電力は逆潮流(系統への送電)となり、その分は売電扱いになります。また、自家消費に切り替える際には、電力会社との契約変更や、場合によっては出力制御機器の設置が必要になることがあります。
蓄電池を併設すれば、昼間の余剰電力を夜間に使えるため、自家消費率を80%以上に高められます。蓄電池の価格は1kWhあたり10万円から20万円と高額ですが、補助金を活用すれば回収期間は7年から10年程度になるケースもあります。経済性を試算する際は、必ず現在の買電単価と蓄電池の寿命(10年から15年)を考慮に入れてください。
売却・撤去の判断基準と手続きの落とし穴
発電所の状態が著しく悪く、修繕費が年間売電収入の3年以上分に相当する場合や、土地の賃借料が収入を圧迫している場合は、売却や撤去も選択肢に入ります。中古太陽光発電所の売買市場は活発で、卒FIT後でも発電所として価値が認められるケースが増えています。
売却を検討する際は、以下の3点を押さえてください。まず、FIT期間中の売電実績が証明できる書類(検針票や売電明細)を整理しておくこと。次に、パワコンやモジュールの製造メーカーと保証期間を確認すること。最後に、土地の契約が売却後も継続可能かどうかです。特に、土地の所有者が異なる場合は、売却前に地主の承諾が必要になります。
撤去の場合は、産業廃棄物としての処理費用が発生します。一般的な太陽光発電所(出力50kW程度)で、撤去費用は150万円から300万円程度かかります。また、撤去後の土地の原状回復義務を契約書で確認しておかないと、追加費用が発生するトラブルも少なくありません。
判断を急がず、まずは現状把握から
卒FIT後の太陽光発電所は、FIT時代と比べて収入が減少する可能性が高い一方で、適切な選択を行えば、長期的に安定した収益源として維持することも可能です。市場売電、自家消費、売却、撤去のいずれを選ぶにしても、重要なのは「今の発電所がどのような状態か」を正確に知ることです。
発電量の推移、設備の劣化状況、修繕履歴、契約条件、そして市場価格の動向。これらの情報を整理したうえで、複数の専門業者から見積もりを取り、比較検討してください。特に、卒FIT後の市場売電を選ぶ場合は、年間の変動リスクを理解したうえで、複数年契約の相対契約を検討することをお勧めします。
最終的な判断は、発電所の状態と資金計画、そして今後のエネルギー政策の動向を見ながら行う必要があります。慌てて契約を結ぶ前に、まずは発電所の状態を正確に把握することが大切です。その一歩が、卒FIT後の10年間の収入を左右すると言っても過言ではありません。